2019年9月14日土曜日

剱岳小窓尾根白萩川側フランケ下部岩壁センターリッジ 「アザラシアンネック」 9P 5.9R

2019.9.14-16

今年の6月に開催された「シン・沢屋交流会」にて、沢屋のブレインことキノポンからこの岩壁の名前を聞いた。


この岩壁は19752月の岳人に「未登の岩壁」として取り上げられ、同年夏、たちどころに登攀倶楽部と高知グループ・ド・ロックによって登られた。一時話題を集めた壁である。
最近では春期の登攀として約400mの氷のライン「針と糸」が登られているようだが、無雪期の再登記録は聞いたことがない。壁のスケールと情報の少なさに惹かれて挑戦してみることにした。

 三連休で賑わう馬場島から、人の気配が全く感じられない白萩川へ。西仙人谷出合の10m滝を左から超えると空気が変わった。雪渓からの冷風、通行不能滝からの飛沫。右手には岳人に載っていた巨大なハング。ここが白萩川側フランケ下部岩壁だ。登攀開始。1ピッチ目として通行不能滝を右から登る。滝上からルンゼ、コーナーを2ピッチ登り一旦下降した。

 翌日早朝、昨日の到達点までユマール。引き続き2人で交互に登っていく。冬は雪崩の通り道になるからか、残置ボルトは見つからない。途中、遠くのハング下に雪崩から逃れたボルトを発見したときは感慨深かった。登っているときは自分たちが壁のどこにいるのかわからなくなる。気が付くと、反り立つようなリッジの中央を登っていた。長い岩壁が終わりロープを解いたものの、今度は急な草付きが続き神経をすり減らす。一度パートナーが落とした落石が横をかすめて肝を冷やした。小窓尾根上の小ピークに到達したのは18時前。好天時のビバークはいつも楽しい。


 
3日目、スマホのアラームで起床すると、早月尾根を行く登山者の灯りが見えた。第5ルンゼを難無く下降するも、西仙人谷出合で巨大なシュルンドに阻まれた。雪渓は今にも崩壊しそうなので、リスクを減らす為に時間をかけて側壁を1ピッチトラバース。雪渓末端に降りられそうなので懸垂の準備をしていると轟音が。これから通過する雪渓末端が崩壊したのだ。形を変えたばかりの雪渓末端を急いで通過し、更にもう2ピッチトラバースして下部岩壁の取付きに戻った。





2019年8月19日月曜日

剱岳 小窓ノ王西壁

2019年8月10日~14日

剱岳の小窓ノ王西壁について、クライミングのガイドブックにはこう書かれている。

新版日本の岩場「急なフェースにクラックがいくつも切れ込んでいる」
登山体系「(西壁正面フェースについて)花崗岩のしっかりした岩肌が楽しめる好ルート」
ここならボルトに頼らずクライミングが楽しめると思い、期待を胸に登ってきた。

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登ってみて、ルート自体はとても楽しかった。
一つ大きな心配事としては、小窓ノ王は北方稜線登路の上部に位置することだ。
お盆休みの時期だったため、時折人が通り、落石で他人に怪我をさせそうで恐ろしかった。この点であまりお勧めできない岩場かもしれない。
※新版日本の岩場で大々的に紹介されている南壁も同様。

以下記録。
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10日
8時に番場島出発。
汗だくで小窓尾根を登り、池ノ谷に降りる。
谷底に降り立つと、長い雪渓で冷えた空気の吹きおろしに晒される。
池ノ谷左俣
池ノ谷左俣を詰め、三ノ窓にビバーク。

11日
小窓ノ王西壁 1日目

小窓ノ王西壁

小窓ノ王西壁に上がり、登山体系のルート図と見比べてみるもイマイチ一致しない。
とりあえず、やさしそうな右上チムニーから取付くことに。
チムニーを途中まで登り、左のフェイスに乗り移り、凹状を登る。
浮石の撤去も必要で、エイド交じりに登る。
浮石はビレイヤーに人がいないか確認して慎重に落とす。

突き当りのハング下でピッチを切る。

 1ピッチ目 チムニーを登り、左の凹角状へ乗り移る。

 1ピッチ目 凹角状

2ピッチ目ではハングを左右どちらから超えるか迷ったが、左へ。
そこからは傾斜が落ちるも、クラックがなくなりプロテクションに悩まされる。
結局このピッチではカム、ナッツ類に加えて3枚のハーケンを使用した。(もちろんフォローが回収)
バンドに合流し、ハイマツとカムでビレイ。

3ピッチ目では上部壁を登りたいところだったが薄被りで、プロテクションはハーケンしか効かなさそうだ。
フリークライミングで突っ込むには、ホールドがいつ剥がれるかわからないので危険すぎる。
エイドの場合も、手持ちのハーケン3枚では無理だと思い断念。

ちなみに右カンテには、南西稜ルートのものだろうか、ハーケンが残っていた。

バンドを右に回り込み、南面へ。右に行けば行くほどボロイ。
簡単に剥がれる岩を掴んでは、バンド帯に丁寧に置く。
直登できそうなワイドクラックを見つけたのでピッチを切る。

4ピッチ目のワイドクラックは岩が脆すぎて、ナッツ、カムとアブミで登った。

 ピークに登るとサントリーのビール瓶があった


12日
剱尾根R4登攀

岩が硬く、かなり快適。最後の草付でピッチを切る場所に悩みつつ登った。気が付いたら悪いクライミングになっていて緊張した。


ルート最上部からは小窓ノ王南壁~西壁がよく見えた。

13日
小窓ノ王西壁 2日目
2日前に登ったルートが登山体系とイマイチ一致しなかったので、
他のルートを登ってみようと思い再び西壁へ。
前回より南側、踏み跡上の岩にリングボルトが2カ所打ってあるところからスタート。
おそらく南西稜のものか。

1ピッチ目 前回より南寄りからスタート


2ピッチ目
2ピッチ目は傾斜の強い壁に、亀裂を備えた岩が組み合わさっている。
最後にはホールドの乏しいフェイスに、シンハンドのクラックが走っていて面白い。
テラスでビレイ。

3ピッチ目ではスラブを上がり、右にトラバース。
いよいよ下から見えていたワイドクラックに突入。ワイド技術で進む。
上部に見えているルーフワイドが非常に悪そうなので、小レッジでピッチを切る。
ここには残置リングボルトがあった。やはり南西稜か。
ただ、登っているのは顕著なワイドなので、「稜」と付くルートではないような気もする。

4ピッチ目では傾斜の強いワイド。不安定なチョックストーンを超えるところが難しい。(10b)
付近は浮石が多く、ムーブも厳しくクライミングに没頭していると、不意に落石を落としてしまい青ざめた。
抜け口近くにルーフがあり、明らかに悪い雰囲気を漂わせている。ワイドムーブで抜けられるかと思いきや、チョックストーンでワイド技術は使えず。チョックストーンにカム、ナッツを効かせ、エイドとフェイスムーブで抜けた。

登山体系の西壁正面フェースの特定ができていないので、無理やり左にトラバースし、西北西側上部壁をトライすることに。
そこは平均斜度80度の段々状だが、壁が脆い上にプアプロ。確実に登れる目途が立たなかった。クライムダウンで敗退。(黄色5.9? R?)


1回目に登ったラインが赤色で、2回目に登ったラインは黄色。
下降は白いライン上を降りた。


14日
ジャンダルム~下山

ジャンダルムのDクラックを、昨晩合流したS君がオールリードで登った。ライン取りが判然としなく、岩が非常に脆くて悪い。

翌日から台風10号の影響が出るので、早月尾根を下山。
まだ食料もあるし、自分は早月小屋で泊っていきたかったのだけど、二人の意見で下山。24時頃、富山の遅くまでやっているスーパー銭湯に行き、繁華街でラーメンを食べた。寝る場所に困り、3時ごろ道の駅細入?で仮眠。こういう時は無理に下山しないで、山の中でゆっくりと一泊するのがよい。